脱炭素社会と未来のエネルギーとは?ベテラン技術者がわかりやすく解説!

学びのチェックポイント

水素は未来のエネルギー!?脱炭素社会とは?

脱炭素社会(カーボンニュートラル)とは

はまちゃん: 橋本先生!この前、テレビで水素を使って走る自動車を見ました!
水素は、未来を考えた環境に優しいエネルギーだそうです。仕組みや使われている理由などくわしく知りたいです!

橋本先生:それは水素を使った燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)だね。水素と酸素の化学反応で発電し、その電気でモータを回して走る電気自動車だよ。
この技術はトラックやバスにも展開され、実用化が進んでいるんだ。最近では、ガソリンの代わりに水素そのもので走る水素エンジン車が耐久レースで走ったことが話題になっていたね。
いろいろと課題があるけど、水素でタービンを回して発電することも考えられているんだ。 水素は「カーボンフリーなエネルギー」の新しい選択肢のひとつなんだよ。

燃料電池自動車(FCV)の基本構造

はまちゃん:なるほど。水素エネルギーは、発電・輸送・産業など幅広い分野での活用が期待されているのですね。なぜ急に電気自動車(EV:Electric Vehicle)や燃料電池車(FCV)が話題になってきたのでしょうか。

橋本先生:いい質問だね。それは脱炭素社会と日本のエネルギー問題に大きく関係しているんだよ。私たちが直面している問題のひとつに地球温暖化があるよね。その原因は、温室効果ガス、主に二酸化炭素(CO2)なんだ。CO2は一度大気中に放出されると、植物や海洋に吸収されない限り、半永久的に大気中に残存して、地球温暖化に極めて大きな影響を与えるよ。
世界中の異常気象の原因と言われているんだ。地球環境を維持するために、温室効果ガス(CO2)をできる限り減らす脱炭素社会の実現が必要なんだよ。

はまちゃん:日本政府が発表した”2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す”ですね。カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を相殺してゼロにするということですね。

橋本先生:その通り。よく勉強しているね。2050年までのカーボンニュートラルを表明している国は125カ国と1地域なんだよ。日本は世界に遅れをとっていて、この宣言をきっかけに、産業構造を転換、排出削減を実現してく予定なんだ。脱炭素化は、産業界にとっても重要なテーマとなっているんだよ。

未来のエネルギーってどうなるの?

日本のエネルギー政策とは

エネルギー第5次計画

橋本先生:エネルギー資源のほとんどない日本にとって、エネルギー政策は、とても重要なテーマなんだよ。 政策には基本方針があって、今年(2021年)は第6次計画が出される予定だよ。
これまでの第5次計画の方針では、エネルギー安定供給(25%程度を2030年度に実現)、環境への適合(2030年度に2013年度比▲26%)、経済効率性向上(2030年度9.2~9.5兆円)の3Eを基本原則としているんだ。 東日本大震災後の2014年に、これらの原則に安全性(Safety)が追加され、エネルギー政策の基本原則は、安全性(Safety)を大前提のもと、3Eの実現を目指す「3E+S」となったんだよ。

2030年に向けてのエネルギーミックス

日本の発電量の比率

橋本先生:第5次エネルギー基本計画は「温室効果ガスの26%削減」「エネルギーミックスの確実な実現」という目標を掲げているよ。
エネルギーミックスが必要な理由は、完全無欠な発電方法が存在しないからなんだ。 それぞれの課題を補うために、さまざまな発電方法をバランスよく使って、中長期的な対応していく必要があるんだ。

はまちゃん:日本はまだまだ火力発電が多いのですね。CO2の排出量を抑えるためにもエネルギーミックスは重要になっていきそうです。

橋本先生:その通り。また、火力発電の中でも液化天然ガスはCO2排出量の低減技術開発が進んでいるよ。水素ガスやアンモニアでのCO2を排出しない発電なども研究されているんだ。 それぞれの発電方法について表にまとめてみたよ。

    発電方法 電源構成 エネルギーの安定供給 環境保全 運転特性
    2018年 2030年 CO2排出量(g-CO2/kWh)
    1兆512億kWh程度 1兆650億kWh程度 採掘・建設・輸送時 発電時
    石炭(火力) 32% 26% •燃料埋蔵地域が世界に広分布
    ■79 ■■■■■864 •穏やかな出力変動は可能
    •需要の変動に応じた出力変動が容易
    石油(火力) 7% 3% •燃料埋蔵地域が中東に偏り ■43 ■■■■695
    天然ガス(火力) 38% 27% •燃料埋蔵地域の偏りが小さい ■123 ■■■476 •需要の変動に応じた出力変動が可能
    原子力 6% 20~22% •備蓄性に優れる
    •燃料をリサイクルできる
    19 発電時のCO2
    排出なし
    •出力は常に一定
    太陽光 6% 7% •資源が枯渇する恐れがない
    •自然条件に左右される
    ■38 •自然条件によって出力が大きく変動
    風力 0.70% 1.70% 26
    水力 7.70% 8.8~9.2% _ 11 •おおむね一定
    バイオマス 2.20% 3.7~4.6% _ _ _
    地熱 0.20% 1.0~1.1% _ _ _
    アンモニア _ _ _ _ •おおむね一定

    はまちゃん:どの発電方法もメリット、デメリットがあるのですね。

    橋本先生:次に再生可能エネルギーについてもまとめてみたよ。CO2を排出しないエネルギーとして重要視されているけれど、電力供給の安定性や設備導入のためのコストが高いなどの課題もあるんだ。設備にはカップリングブレーキなど三木プーリ製品も使用されているよ。

    種類 概要 特徴 仕組み
    太陽光 太陽の光エネルギーを直接電気に変えるシステム。家庭用から大規模発電まで導入拡大。 ・燃料代不要
    ・CO2が出ない
    ・広大面積が必要
    ・日照量変化、夜間発電できない
    太陽光発電の仕組み使用製品:緩衝・揺動・防振装置(ロスタ)
    風力 風車を回し、その回転運動を発電機に伝えて電気を起こす。陸上、洋上設置がある。 ・エネルギーに限りがない
    ・CO2が出ない
    ・季節や時間で変化、発電量が不安定
    ・騒音発生
    風力発電の仕組み使用製品:無励磁ブレーキ
    水力 河川の高低差を活用して水を落下、水車を回して発電。農業用水や上水道施設でも発電できる中小規模タイプもあり。 ・安定した長期間運転が可能
    ・中小規模は分散型発電として需要。
    (相対的に高コスト)
    水力発電の仕組み使用製品:原動機用ゴム・樹脂カップリング(センタフレックス)
    地熱 地熱エネルギーを蒸気や熱水で取り出し、タービンを回して発電。火山国に豊富な資源。 ・出力安定、大規模開発が可能
    ・24時間稼働
    ・開発期間10年程度、開発費用高価
    ・地元との調整要(温泉、公園施設と重複)
    使用製品:金属板ばねカップリング(サーボフレックス)
    バイオマス 動植物などの生物資源をエネルギー源として発電。木質バイオマス、食品廃棄物など、さまざまな資源をエネルギーに変換。 ・廃棄物の削減に貢献
    ・天候に左右されない
    ・原料の安定供給、原料の収集、運搬、管理にコストがかかる
    バイオマスの仕組み使用製品:原動機用ゴム・樹脂カップリング(センタフレックス)

    省エネルギーへの取り組み

    日本の省エネルギーへの取り組みとは

    橋本先生:エネルギーを考えるとき、エネルギーを無駄遣いしない、省エネルギーについても考える必要があるね。日本は2030年度のエネルギー需要見通しの実現に向けて徹底した省エネルギーを進めていく予定だよ。

    エネルギーミックスにおける最終エネルギー需要,エネルギー消費効率の改善のグラフ

    はまちゃん:非常に厳しい数値ですね。この目標をクリアーするには、産業、業務、運輸、家庭でさらなる省エネ対策が必要なんですね。

    橋本先生:その通り!具体的な対策は、次で紹介するよ。

    モータ効率1%アップで50万kWの発電所が不要に!?

    橋本先生:地球上の電気エネルギーの約半分をロボットや工場設備、冷蔵庫、エアコンなどのモータが使用していると言われているんだ。
    モータの効率を1%アップさせることで、50万kW(中規模の原子力発電所1個分の電力)の省エネにつながると言われているため、動力伝達に使われる部品である、カップリングクラッチブレーキなどもモータの効率アップを考えた選定をする必要があるね。

    モータ効率1%アップで50万kWの発電所が不要

    はまちゃん:カップリングクラッチブレーキの選定が、省エネにつながるなんて驚きです!

    カップリングやクラッチブレーキの選定が、省エネにつながるなんて驚きです!

    産業界での取り組み

    橋本先生:これからの工場は空調設備やモータの省エネに徹底的に取り組んでいかなければならないと言われているよ。取り組みの詳細は以下だよ。

    ■工作機械

    工作機械

    加工物は周囲の温度変化、機械からの発熱、加工での発熱により、その加工精度が大きく変化する。そのため室温の温度管理が重要となり、多くの電気エネルギーが必要となる。
    【省エネ対応】
    普通の工場環境で実現するため、熱変位を制御。
    切削液の消費量削減など。

    ■ポンプ・圧縮機・送風機

    ポンプ

    電動機は、工場内の空調やポンプ、圧縮機に使用されており、その消費電力は、全体の約50%と言われている。電動機の省エネに取り組むことが大きな節電につながると考えられている。
    【省エネ対応】
    トップランナー制度によるエネルギー消費効率の改善。
    永久磁石を使ったPMモータへ置き換えることで、省エネ、高効率化の促進。

    はまちゃん:産業界でも省エネについて、真剣に取り組んでいるのですね。

    橋本先生:三木プーリでも試験機のエネルギーを再利用する設備を導入するなど、 省エネに取り組んでいるよ。(耐久試験機動画▶

    私たちにできること

    はまちゃん:カーボンニュートラルやエネルギー問題は産業界にとっても重要なテーマだということがわかりました。私たちの生活の中で何かできることはありますか。

    橋本先生:もちろん、あるよ。右のグラフを見てみよう。 電気をたくさん使っているのは電気冷蔵庫、エアコン、照明器具なんだ。 これらを省エネタイプのものにしたり、節電することでカーボンニュートラルに貢献できるよ。

    はまちゃん:私たちでもすぐに取り組めることがたくさんあるのですね。
    カップリングクラッチブレーキの正しい選定方法を学ぶ、電気のムダ使いを減らすなど、できることからはじめてみたいと思います!

    橋本先生
    監修・講師
    橋本先生 / 三木プーリ株式会社

    1972 年三木プーリ株式会社 入社。プロダクトマネージャーとしてマー ケティング・技術を担当し、国内外問わずに活躍。
    さらに、企業のみならず大学や専門機関との共同研究にも従事。 現在は、技術指導・社員教育も担当。

    メルマガにて最新記事の更新をお知らせします。1分で完了!登録はこちら

    PAGE TOPやさしいWEBセミナー TOP